岡先輩との初対面。それは事務所でもなく、会議室でもなく、エレベーターの中だった。事務所に向かうエレベーターに最初に乗り込んだ私は、間違えてドアの「閉める」ボタンを押してしまった。そしたら最後に乗ろうとした長身の男性をエレベーターのドアで挟んでしまった。
おそる、おそるその長身の男性を覗き込むと、岡先輩だった。その事にまったく気づかない他の二人。緊張で私の手は震え、思わず、落ち着こうと持ってきたお茶をゴクリと飲んだ。これが我々と岡先輩との初対面だった。
初めに・・・
公共のエレベーターの中でお茶飲んじゃダメだよ。食べ物はもちろん飲み物も飲んじゃダメ。それと冬にコートも着ちゃダメだよ。就職活動をするときに気をつけないとね。エレベーターも公共の場所だからさ。学校の中はいいんだけど・・・。知らないでしょう、そういうの(笑)
Q 『早大生時代の一番の恋愛話は?』
- A 高校から五年間ほど付き合っていた彼女がいたんだけど、最近判明したんだけど、彼女、通っている大学でもう一人彼氏がいたみたいなんだよね(笑)そのもう一人の彼氏と話しているうちに共通の彼女だったことに気がついて、僕はその彼には言えなかったけど正直飯が食えなくなるほどショックだったよ。五年間付き合っていて、四年間はダブってたみたいなんだ。早稲田の男は騙されやすいから気をつけろよ(笑)
Q 『去年大隈講堂で行った早稲田大学広告研究会の講演会にて、「おもしろいコピーや作品を作りたいなら会議なんかやってないで恋愛したほうがいい」とおっしゃってたことについてどういうことか詳しくお聞かせ願いますか?』
A 恋愛に限らなくても、親や友達、社会や本や映画なんかでもいいと思うんだけど、そういうものと自分との関係というものを知ることのほうが根本的に全ての表現に関わってくるのではないかと思う。それができているかどうか。今、コピーの勉強をしたってしょうがない。極端に言えば色んな目にあっている奴のほうが可能性があって、色んな目にあっているだけじゃなくてそれと自分との関係をきちんと突き詰められるって言うのが大切なんだと思う。だから広告コピーの勉強をするより恋してるほうがいいんじゃないかな。
Q 『岡さんはスポーツを子供のころからずっとやってらして、今もジムに通られてるということなんですが、岡さんの作品に感じられる強い意志のようなものはスポーツから培ったものなのでしょうか』
A 人が何から影響を受けて今の自分を形成しているかなんてわからないんだよ。たとえそれが遊びであったとしても、騙されるにしても、何か事件に巻き込まれたとしても、たとえそれが勉強ばっかやって東大に合格したのだとしても何でも構わないと思う。スポーツと僕の仕事との間に何か関係があるとは思えない。特に男は何かと関係したいと何事にも結び付けようとするじゃないですか。男は「自分という物語」を生きているから何事にも結び合っていたいと思うわけですよ。女の人は逆にそうは思っていないから昔は昔、今は今、ですむわけ。リアルに生きているから物語なんてものは彼女たちには必要ないのだろう。逆に言えば何事にも関係を結び付けられる男のほうが関連性を持って話すことが女の人よりうまいんじゃないだろうか。
Q 『「自分のベスト作品ができたら引退だよ」っていう記事を拝見しました。詳しくお聞かせください。』
A 何が自分のベストかって考え出したらそれは引退するってことだよ。ものを作る人間っていうのは次に作るものこそ最も優れたものになるんじゃないかなぁと思いながら作る。いつも「次こそは」って思っているんだよ。そういうことを思えなくなるってことは、そいつはもう作る資格ないと思う。次こそはいいもの作るぞっていうエネルギーの根元さえなくしてしまうことなわけで、そのエネルギーをなくしてしまったら引退するしかないと思うんだよね。
――次は我々若い世代にガツンと言っていただきたいんですが、今の早大生を含む若者にメッセージは何かございますか?
そんなに早稲田の人って知らないからさ、早大生って言われても……息子も早稲田に行ってほしかったけど成城に行っちゃったし(笑)
うーん、まずそれどころじゃないっていう感じもあるんだよね。自分のこれからのこと、これからの課題ってあるでしょ。そして責任もあるし。そういうことを追ってる日々だからある意味若いやつに何か思うことなんて何もないんだけど(笑)
原理主義的な思考をしないほうがいいと思う。これしかないっていうような生き方って一見見事なんだけど、特に若いうちはね。若いうちからいろんなことを決め付けないでほしいと思うんだよね。全てを疑っていてほしい。疑うことって大変なんですよ、信じることのほうが楽なんだけど、それでも疑っていてほしいと思う。疑いを持ち続けるってことは考え続けるってことだから、そういう姿勢の中からでしか、充実した人生って生まれないんじゃないかと思う。かつての軍国主義とか、どこかの国みたいに原理主義でもって一生を終えられる時代や地域なら話は別だけれども、今僕らが生きてる日本という国の中ではそのような生き方はできない。そのときそのときの相対的な価値の中で左右される、ものすごく揺れ動く。
その何が正しいかわからないような状態の中で君たちはこれから社会に出て、あるいは結婚をして子供を育てて一生を終えていく。そういうときに一番大事なのは、自分の思い、意志、思想なんだよね。でもそれすらもよくわからないんですよ、自分が何をしたいか。就職のときに突き詰めればいいと思うけど、それでも答えなんて出ないんですよ。何の仕事にも就いたことがないのにその仕事がしたいなんてことありえないじゃないですか。いい加減なんだよな、就職って。で、自分の意志なんて就職のときは特にわからなくなると思う。でもそれならわからないならわからないっていう前提の下に動いたほうがいいと思うよ。よくわからないくせに、「僕は商社しか行かない」って決め付けるのは妙なことだと思うんだよね。
―今振り返ってみて、岡先輩にとって早稲田大学とはどんな大学でしたか?
早稲田大学ってのは、母校と呼ぶのにふさわしい学校でしたね。小学校や中学校や高校よりもやっぱり早稲田が一番、自分を育てたという風に感じますね。
僕の家の事情もあって、奨学金頼みで四年間過ごしたってのもあるから、文字通り早稲田に育ててもらった。
思い入れは人より強いですよ。早稲田には。
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プロフィール
岡 康道 Yasumichi Oka
クリエイティブディレクター/CMプランナー/コピーライター TUGBOAT
1956年8月15日生まれ。佐賀県川副町出身。80年早稲田大学法学部卒。 同年(株)電通に「営業」として入社。85年にクリエーティブ局へ異動。
99年7月クリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を設立。
主な仕事にJR東日本、TBS、キリンビバレッジ、パイオニア、富士ゼロックス、富士写真フィルム。 著書としてはブランド (吉田望氏との共著) 宣伝会議刊、ブランドU(吉田望氏との共著) 宣伝会議刊CM(小田桐昭氏との対談)宣伝会議刊がある。
クリエーター・オブ・ザ・イヤー、アジア太平洋広告祭金賞・銀賞、ADC賞、TCC最高賞、ACC金賞ほか多数受賞。
「CM」
小田桐昭/岡康道 (宣伝会議)
2005/05出版 \2,000(税込) |
「ブランド」
岡康道/吉田望 (宣伝会議)
2002/11出版 \2,940(税込) |
「ブランドU」
岡康道/吉田望 (宣伝会議)
2004/05出版 \2,940(税込) |
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